研究紹介

臨床研究

当科では積極的に臨床研究を
行っています、
ここではその一例を
紹介いたします。

研究統括

小川 純人 小川 純人

当講座は、全身を総合的、包括的に診療する老年病科としての臨床・教育体制を有することに加えて、その強みを基礎研究や臨床研究に反映させており、大学院講座分野としての老年病学と老化制御学の研究にも力を入れております。
特に、老年疾患や老年症候群の病態・成因の解明、予防・治療法の開発につながる基礎研究や臨床研究を幅広く展開しており、各研究グループが精力的に取り組んでいます。また、老年疾患や老年症候群が組織や細胞の老化に起因する点を踏まえて、老化の基礎研究をさらに進め、老化制御から成因解明や治療開発に迫る学際的研究も目指して取り組んでいます。その中では、疾患・老化モデル動物を活用したホルモンや長寿遺伝子等の作用メカニズムの解明をはじめ、オミックス情報などの網羅的解析、分野横断的なアプローチに基づく老化・代謝制御の解明なども推進してきており、精力的に研究成果を発信していきたいと考えています。
当科での研究や活動にご興味のある方は、ぜひ一度見学にお越しいただき、私たちの取り組みをご覧いただければ幸いです。

石井 正紀 石井 正紀

高齢者2型糖尿病患者においては、フレイル、サルコペニア、骨粗髪症・骨折、心不全、悪性腫瘍などを併発し、多疾患が併発しやすい状態(Multimorbidity)になりやすく、一方、加齢に伴い進行し高齢者に多い呼吸器疾患である慢性閉塞性肺疾患 (Chronic Obstructive Pulmonary Disease: COPD) は、同じ呼吸器疾患である喘息よりも2型糖尿病発症リスクが高いことが知られている。これまでも我々は、高齢者2型糖尿病患者を対象として、COPD発症リスクや肺機能低下、オーラルフレイルとの関係性について老年医学的なアプローチとして発表してきたが、このような高齢者に多い糖尿病と呼吸器疾患(COPDや肺機能低下)の関連性について考察する分野横断的な研究は、依然として非常に少なく、高齢者2型糖尿病患者における肺機能低下やフレイル(オーラルフレイルも含む)への影響因子として、筋肉・骨・血管機能低下を仮説とし、骨格筋量や動脈硬化など評価を行っております。

フレイルは、老化に伴う各種の機能低下を背景として脆弱性が進展し、健康障害に陥りやすい状態を指し、フレイルは自立と要介護状態の間に位置し、適切な介入により自立に戻すことができる状態と考えられておりますが、肺機能低下を伴う高齢者2型糖尿病患者におけるフレイル予防対策は、ADL低下を予防する上でもわが国では重要な介護予防対策となり得えます。その意味でも、高齢者2型糖尿病患者における肺機能低下やオーラルフレイルへの影響因子を探索することは極めて今後の日本の高齢者医療においては重要であり、とりわけ、将来の介護予防を念頭に、幅広く筋肉・骨・血管機能低下を中心とした仮説を前提に、老年医学的なアプローチのもと、斬新かつ総合的、分野横断的な探索を行っております。

2型糖尿病患者において、COPD・肺機能低下が併存しやすい理由については完全には解明されていないが、背景として炎症や肥満の関与が示唆されております。IL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインの高値は2型糖尿病の発症リスクを増加させますが、これらの高値は同時にCOPDのリスク因子でもあります。また、肥満は2型糖尿病の明確なリスク因子であるが、一方で腹部及び胸部における脂肪蓄積による物理的影響を介して予備呼気量と機能性残気量を減少させ呼吸機能を低下させます。その一方で過剰な脂肪細胞はIL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインを産生し、また、抗炎症作用を有するアディポネクチンを低下させる。したがって、2型糖尿病とCOPDの病態には炎症や肥満が共通の基盤として関与している可能性がある一方で、低BMIがCOPDのリスク因子であることも報告されており、進行したCOPDにおける骨格筋量の減少(サルコペニア)は病態生理学的には癌や悪液質と同様に予後を悪化させる因子ともされております。特にサルコペニアは加齢に伴って全身の筋肉量が減少し、筋力及び身体機能(運動機能)が低下した状態を指し、日本人の有病率は7.5%~8.2%とされ、サルコペニアは転倒・骨折などのリスクが高く、フレイルの進展にも大きく影響します。特に日本人は、高齢者2型糖尿病患者では肥満だけではなく、体重減少を背景にしたCOPDや肺機能低下、フレイル(オーラルフレイルも含む)の要素が多いです。日本人の高齢者2型糖尿病患者における肺機能低下やフレイルへの影響因子を探索することは、今後のADL低下を抑制し、要介護者増加を予防する上でも非常に重要です。

これまでも、我々は、非高齢者と比較した形で高齢者2型糖尿病患者におけるCOPDならびに呼吸機能とその影響因子について検討し、高齢者2型糖尿病患者におけるCOPDの特徴的な規定因子としては、男性や低BMI、インスリン抵抗性などであることを報告し(Ishii, al. Sci Rep, 2019)、オーラルフレイルとの関連も示しました(Ishii, al. BMC Geriatrics, 2022)。今後も、65歳以上の高齢者2型糖尿病患者における肺機能低下、フレイルの予測因子として、フレイル(オーラルフレイルも含む)や筋肉量、血管評価などを中心に、加齢を基軸とした分野横断的な検証を行っておりますので、ご興味のある方はぜひお問い合わせください。

東 浩太郎 東 浩太郎

老年病科の病棟に入院している患者さん、外来に通院している患者さん、および老年病科が加わっている院内組織である骨粗鬆症センターや大腿骨骨折ボードの症例などを対象とした、臨床研究を整形外科、内分泌科などと共同で行っています。大腿骨骨折ボードにおける多職種介入、ポリファーマシー介入と予後の関連、骨粗鬆症センター症例における二次性骨粗鬆症の頻度、消化器疾患にともなう脂溶性ビタミン不足と骨粗鬆症の関連などについての臨床研究を実施および計画しています。

また、東京都健康長寿医療センター研究所の社会医学部門が主催する、地域在住高齢者を対象とした疫学研究に参加し、ビタミンK、ビタミンE、オキシトシンと認知機能、うつ症状、身体的フレイル、社会的フレイル等の関連について、研究を行っています。

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