研究紹介

基礎研究

呼吸器疾患研究グループ

石井 正紀 石井 正紀

日本には、500万人以上の慢性閉塞性肺疾患 (Chronic Obstructive Pulmonary Disease: COPD)の患者がいると推定され、超高齢社会を迎えた現状で、今後も増え続けると予測されているが、その多くは、未診断の状態で、十分な治療が受けられていないのが現状であり、世界的に、COPDに対する取り組みが急務となっております。多くの気管支拡張薬の効果が大規模な臨床試験で実証されているが、いまだCOPDの進行とその慢性炎症を根本的に治癒させる方策はありません。COPDは、加齢に伴い進行し高齢者に多い呼吸器疾患であり、COPDの特徴的フェノタイプである肺気腫の原因遺伝子の一つとして、Latent transforming growth factor beta binding protein 4(LTBP4)が知られており、弾性線維形成促進能が報告され、ヒト肺気腫合併の皮膚弛緩症の原因とされ、全身性老化を示す老化関連疾患と考えられております。COPDは喫煙を主因とし、呼吸機能検査で非可逆性の閉塞性障害をきたす疾患であるが、特に、COPDにおける肺気腫型の患者は、COPDの特徴的なフェノタイプであり、COPDの中でもQOLや予後の悪いサブグループを示唆すると考えられており、例えば、これまで、collagen, elastin, fibrillinのcross-linkage に関わるlysyl oxidase(LOX)の選択的阻害剤により幼若ラットに肺気腫を形成(Am J Pathol 1981)、成熟後も改善せず(Am Rev Respir Dis 1980)、大動脈瘤も高率に発症、しばしば破裂し急死することを確認されております。これは、Marfan 症候群と病態が類似し、fibrillin-TGF-β 経路のCOPD病態への関与が考えられるますが、これまで、同経路におけるLTBP4遺伝子が肺気腫と関連することとしては、ゲノムの同部位はGWASでCOPDとの関連が指摘され(Hum Mol Genet 2012)、喫煙による同部位の遺伝子発現パターンの変化が報告されている(Plos One 2014)一方、LTBP4遺伝子は、皮膚線維芽細胞を用いて弾性線維形成促進能が報告され(PNAS 2013)、その変異は、老化関連疾患の表現型の一つであるヒト肺気腫合併皮膚弛緩症(cutis laxa)の原因とされておりますが(Hum Mol Genet 2006)、詳細はまだ十分分かっていない状況です。

老化や喫煙によりLTBP4の発現が低下することや遺伝的な要因でLTBP4発現量が低下することで、老化関連疾患の一つである肺気腫の表現型を呈することが予測され、我々の研究グループでは、肺の老化・炎症・抗酸化機能としてのLTBP4の役割を明らかに致しました(Ishii M, Takada K et al. Arch Gerontol Geriatr 2024)。今後は、肺の老化や喫煙に伴う肺気腫形成に対するLTBP4補充の治療可能性なども含め、さらに抗炎症や抗老化の観点から検証することは、老年医学として学術的に極めて重要です。特に、肺の弾性線維形成を促進し細胞外器質の再生を図ることできれば、COPDの根本治療につながり、高齢患者のADL、QOLの向上から、健康寿命の延伸にも寄与することが期待されます。これまで、ヒトやマウスの肺組織や肺線維芽細胞を用いた肺気腫モデルとして、喫煙暴露や遺伝子発現抑制によるLTBP4の発現低下により、炎症や細胞老化にどのような影響を与えるかという研究は行われておらず、この病態進行を反映する新規バイオマーカーの同定も含め、引き続き肺組織におけるLTBP4の抗炎症・抗老化効果を検証する予定です。そのほか、肺の抗炎症作用としてのビタミンD受容体の役割についても研究を進めております(Ishii M et al. Inflammation 2017)。高齢者呼吸器疾患や肺の老化・炎症のメカニズムの解明に興味のある先生方はぜひご来訪いただきたいです。

肺の老化 肺の老化

肺の老化や肺気腫の病態とLTBP4の新規治療としての可能性

また、他の研究機関との共同研究も含め、免疫グロブリンの一種であるIgAと炎症性肺疾患の関連についての研究も継続しております。IgAは粘膜面での局所免疫に重要である一方、血液中にも豊富に存在するが、その機能はいまだ未解明な要素ですが、私たちは、血清IgAを培養肺微小血管内皮細胞に作用させ、MAPK、NF-κB経路の活性化を介して、接着分子や炎症性サイトカイン産生が誘導し、血管新生能の抑制を明らかに致しました(Takada K, Ishii M et al, Cell Immunol 2023)。今後、血清IgAも含め、炎症性肺疾患の治療標的としての検討を行っていく予定です。

内分泌・骨粗鬆症研究グループ

東 浩太郎 東 浩太郎

私達の研究グループでは、ホルモン、ビタミンと加齢性疾患について、研究を展開しています。骨粗鬆症などの加齢性運動器疾患、フレイルに興味を持ち、基礎研究、臨床研究、疫学研究を幅広く展開しています。

女性ホルモン濃度の低下と老化

骨粗鬆症は、加齢に伴う、骨強度の低下により骨折しやすくなる疾患ですが、その発症には、環境や体内の多臓器の加齢性変化が影響します。その中で、女性ホルモンであるエストロゲン分泌の低下の寄与度は高く、女性においては閉経期を境に、骨密度が急激に低下することが知られています。このことは、女性ホルモンの作用が老化の鍵を握っていることを示唆しており、私たちは、エストロゲンの新たな作用メカニズムの解析を進めています。エストロゲンの作用の1つは、核内受容体であるエストロゲン受容体に結合し、標的細胞の転写を変化させることです。私たちは、新たなエストロゲン応答遺伝子の解析から、骨代謝(Azuma K et al. iScience 2024)、筋機能(Kobayashi A, Azuma K et al. Nat Commun 2023)など加齢性運動器疾患にかかわる疾患にかかわる現象を発見し、発表してきました。これらの治験をもとに、骨粗鬆症、サルコペニアに対する、新たな予防、治療法の開発を進めています。

エストロゲンにより誘導される蛋白質EBAG9による
オートファジー促進効果
蛋白質EBAG9

また、エストロゲンの受容体は、核外でも作用していることが推測されており、non-genomic作用と呼ばれます。私たちは、乳がん細胞を用いて、新たなnon-genomic作用を発見し(Azuma K et al. Cancer Res 2009)、加齢性疾患との関連性も解析しています。最近は、高齢者での頻度も増えている乳がん、特にホルモン受容体陽性乳がんの新たな診断、治療法に関しても興味を持っています(Azuma K et al. Proc Natl Acad Sci U S A 2021)。現在、ゲノム診療が臨床応用されていますが、実際の治療に結びつく率は低い状態であり、遺伝子の発現は必ずしもがん細胞の振る舞いを反映する場合もあります。がん細胞の性質により反映した、蛋白質および蛋白質の修飾に着目したテイラーメード医療を目指しています。

ビタミン摂取不足と加齢性疾患

私達の研究室では、かつて大腿骨骨折の発症リスクが西日本で高いことに着目し、納豆摂取および納豆に多く含まれるビタミンK不足と骨折リスクの関連について明らかにしてきました。この成果を元にした臨床研究の結果、日本を含むアジア諸国においてビタミンK製剤(メナテトレノン)が骨粗鬆症治療薬として認可されて、使用されています。

ビタミンKの主な作用メカニズム ビタミンKの主な作用メカニズム

ビタミンKは、血液凝固に必要なビタミンとして90年ほど前に発見されましたが、そのメカニズムは未だ未解明の部分が多く残されています。凝固因子などの蛋白質に対するγカルボキシル化という修飾に必須の因子であることが示されていますが、γカルボキシル化を受ける蛋白質も20種ほどしか知られていません。また、私たちは、SXRという核内受容体を介した転写制御という新たなビタミンK作用を発見し、動物モデルを用いて骨代謝に及ぼす影響について報告しました(Azuma K et al. J Endocrinol 2010)。

ビタミンKの作用を担う核内受容体PXR(ヒトではSXR)の欠損マウスは
骨量減少および骨脆弱化を呈する

ビタミンK不足は、国内外の疫学研究において、変形性関節症、動脈硬化や悪性腫瘍などにも関わっていることが推測されており、凝固作用や骨折予防作用以外にも、多くの加齢性疾患との関連性がありそうです。私たちの行った疫学研究では、認知機能やうつ症状、身体的フレイルとビタミンK不足の関連が示唆され(Azuma K et al. J Bone Miner Metab 2023)、そのメカニズムの解明にも取り組んでおります。ビタミンKと同様に脂溶性ビタミンに分類されるビタミンEと加齢性疾患の関連や、社会行動にかかわるホルモンであるオキシトシンとフレイルの関連性についても、興味を持ち、解析を行っているところです。

疫学研究においてビタミンK不足は
身体的フレイルと精神・心理的フレイルと関連を認める

サルコペニア・フレイル研究グループ

細井 達矢と矢可部 満隆 細井 達矢・矢可部 満隆

  • ●骨格筋と性ホルモン、長寿遺伝子Sirtuinとの関連の検討
  • ●サルコペニア、フレイルに対する漢方薬の効果の検討

高齢者が自立した生活を送る際、身体的側面として特に筋骨格系の維持が重要となります。サルコペニアはギリシャ語で筋肉(sarx)と喪失(penia)を組み合わせた造語ですが、加齢に伴い筋肉量、筋力が全身性かつ進行性に低下する症候群で、身体機能障害や死亡のリスクとなります。一方フレイルは複数の臓器の予備能が低下した結果、軽度の侵襲や疾患を契機に要介護状態に陥りやすい状態を指します。両者は密接に関連し、フレイルサイクルという悪循環を形成します。また、高齢者では活動度に低下による廃用性筋萎縮もしばしば認めます(Yakabe M, Hosoi T et al. J Bone Miner Metab 2020)。サルコペニアを生じる要因としては多くの要因が指摘されていますが、特に性ホルモンの影響が有力視されています(Hosoi T, Yakabe M et al. Reprod Med Biol 2024)。当部門では男性ホルモンであるアンドロゲンに注目し、受容体の遺伝子改変マウスなどを用いた解析と新規治療介入の可能性を探っています(Hosoi T, Yakabe M et al. Proc Natl Acad Sci USA 2023)。また加齢と長寿にも着目し、長寿遺伝子Sirt1と骨格筋の関連についての研究にも取り組んでいます。

臨床現場ではサルコペニアやフレイルの患者さんに漢方薬が用いられてきましたが、エビデンスは不十分なのが現状です。しかし近年、様々な疾患に対する漢方薬の分子レベルの作用機序が徐々に明らかになっています。当研究グループではサルコペニア、フレイルのモデルマウスに漢方薬を投与し、その効果を身体機能測定や様々な分子生物学的手法により検証しています(Yakabe M, Hosoi T et al. BMC Complement Med Ther 2023)。これにより骨格筋に対する漢方薬の作用機序を明らかにし、サルコペニア・フレイルの治療戦略の確立を目指しています。

サルコペニアを生じる様々な要因
(Hosoi T, Yakabe M et al. Reprod Med Biol 2024)

性差医学・血管老化研究グループ

七尾道子 七尾道子

血管老化における性ホルモンの役割検討

1. 血管石灰化

血管石灰化は血管老化を代表する病態で、主に血管平滑筋細胞が関与する器質的変化です。血管石灰化は加齢とともに増加し、動脈硬化を進行させ、高齢者に特徴的な血圧変動の増大や起立性低血圧の原因となります。

私たちは、無機リンによって誘導される血管石灰化に対し、アンドロゲンおよびエストロゲン(Nanao-Hamai M et al. Biochem Biophys Res Commun 2016 )が抑制的に作用することを確認しました。また、アポトーシス抑制に関連するGas6遺伝子の転写制御が作用機序であることを示しました。さらに、漢方薬の補剤成分であるginsenoside Rb1(人参の主成分)やAstragaloside IV(黄耆主成分)が選択的アンドロゲン/エストロゲン受容体調節薬として作用する可能性を明らかにしています(Nanao-Hamai M et al. Eur J Pharmacol 2019)。今後は、補剤生薬の作用や漢方のブレンド効果についても検討予定です。

アンドロゲン/エストロゲン受容体を介した血管石灰化抑制作用

2. 腹部大動脈瘤

腹部大動脈瘤(Abdominal Aortic Aneurysm: AAA)は加齢性血管疾患であり、男性に多くみられますが、女性ではより小さな径で破裂しやすく、性差が示唆されています。炎症誘導性AAAモデルマウスを用いた研究では、テストステロンがAAA形成と瘤の炎症を抑制することを確認しました。現在はエストロゲンの抑制機序や、漢方薬のAAA抑制作用も研究を進めています。

精巣摘出による大動脈瘤形成の亢進

3. 臓器連関

William Osler博士 が「ヒトは血管とともに老いる」と示したように、血管老化は多くの疾患や病態に密接に関連しています。近年、臓器や組織間の機能連関や相互作用を通じた新しい代謝調節機構が注目を集めており、私たちも血管を介した多臓器への炎症波及について検証しています。中年マウスに血管炎症を引き起こしてAAAを誘導すると、海馬CA3領域で神経細胞の減少が観察され、認知機能障害が示されました(Hashizume T, Nanao-Hamai M et al. Sci Rep 2019)。今後、血管-骨格筋連関のメカニズムについても研究を進める予定です。

大動脈瘤誘導による認知機能低下

筋老化・機能低下における性ホルモンの役割検討

高齢者では、活動度の低下や転倒・骨折による症状安静などにより廃用性萎縮が生じますが、若年成人と比較して廃用の影響を受けやすいことも知られています。私たちの研究では、廃用性筋萎縮モデルマウスにおいて、腓腹筋の萎縮に伴ってアンドロゲン受容体の発現が低下し、C/EBPδ~Myostatin経路の亢進、IL-6などの炎症性サイトカインの発現上昇が関連して筋萎縮を促進することを確認しました。今後は、メスマウスにおける検討やマイオカインの関与も検討する予定です。

廃用性筋萎縮における炎症の関与とAR発現変化

高リン食とフレイル進行の関連 -性ホルモン受容体を介した慢性炎症の関与検討

過剰なリンの摂取は心血管疾患・サルコペニア・認知症などのフレイル関連疾患の進行に影響を及ぼします。高リン食が炎症を介して血管石灰化やAAAを促進する可能性を示唆する結果が得られており(Komuro A, Nanao-Hamai M et al. Geriatr Gerontol Int 2024)、筋肉の老化に与える影響も検討中です。また、大規模コホート研究を通じてリンの摂取量とフレイル疾患との関連も調査予定です。

高リン酸食によるAAA形成亢進と石灰化

高リン酸食誘導AAAにおける骨芽細胞表現型への
形質転換・アポトーシスと炎症の関与

Keyword1: 性ホルモン

私たちは、老化関連疾患における性ホルモンの役割を長年にわたり研究しています。加齢に伴う性ホルモン(アンドロゲン、エストロゲン)の減少はよく知られていますが、老化関連疾患やフレイル※には性差が見られます。例えば、骨粗鬆症や認知症は女性に多く、心血管疾患や筋肉量の減少は男性に多いことが知られています。閉経後の女性は、同年代の男性よりもフレイルリスクが高いとされています。
※フレイルの定義:加齢とともに心身の活力が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、心身の脆弱性が出現した状態あるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像

Keyword2: 慢性炎症

慢性炎症は老化関連疾患やフレイルの基盤となる病態であり、高齢者では「inflammaging」(inflammation + aging)が発症や進行に寄与すると考えられています。私たちは、加齢に伴う性ホルモンの低下が慢性炎症を引き起こし、老化関連疾患やフレイルを進行させる可能性に着目し、性ホルモンの抗炎症作用を解明しながら、その予防効果のメカニズムを追究しています。

Keyword3: 漢方薬

ホルモン補充療法は、エストロゲン補充では凝固系亢進や乳がん、子宮がんの増加など、アンドロゲン補充では多血症や前立腺肥大など有害作用の発現リスクが一定以上あるため、適応は更年期症状に限られます。そこで、性ホルモン様作用を持つ漢方薬に注目し、中でも虚証に対して使用される漢方補剤(人参養栄湯、補中益気湯、十前大補湯など)とその構成生薬(芍薬、当帰、黄耆、人参など)が老化関連疾患に及ぼす影響を研究しています。これにより、選択的アンドロゲン/エストロゲン受容体調節薬としてフレイル予防薬の開発可能性を探っています。

脂質代謝研究グループ

松本昇也 松本昇也

サルコペニアの治療は確立した薬物療法はなく、世界中で様々な視点でアプローチされていますが、リン脂質代謝の役割にはあまり注目されていません。ホスファチジルコリンは生体膜を構成するリン脂質の主成分であり、ホスホリパーゼによってリゾホスファチジルコリンと脂肪酸に分解されます。さらにリゾホスファチジルコリンはリゾホスホリパーゼによってグリセロホスホコリンと脂肪酸に分解されます。
筋ジストロフィーのモデルマウスの骨格筋では、ホスファチジルコリンの組成が変化することが知られています。また、リン脂質の合成や分解に関わる酵素のなかには、欠損や変異によって筋障害を起こすものがあります。これらのことから、骨格筋の恒常性維持においてリン脂質が重要な役割を果たしており、リン脂質のリサイクル経路が存在すると考えられます。私はリゾホスホリパーゼに着目して、東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター健康環境医工学部門(村上誠研究室)と協力しながら、欠損マウスを用いて骨格筋の恒常性維持におけるリン脂質リサイクル経路の役割の解明に取り組んでいます。

老化制御・再生医学研究グループ

加瀬義高 加瀬義高

私たちの研究グループは、老化制御と再生医学をテーマに研究を進めています。
一般に抗老化であるanti-agingという概念と、老化とうまく付き合っていくwith agingという概念があります。当科では、臨床現場でwith agingを実践し患者さんの生活の質を保っていくことに全力をあげていますが、一方で最先端科学の実践としてanti-agingである老化制御に挑んでいます。
最新の研究の動向として、老化は運命ではなく一部遅らせることや生物学的時間を巻き戻すことが可能と言われています。我々は全身を研究対象臓器としており各種解析を行なっています。研究に興味がある方は一度我々の医局までご連絡いただければ幸いです。

老化メカニズム・制御解析

最近の研究では遺伝子配列そのものではなく、その遺伝子をどのように発現制御するかが老化制御の鍵だと言われています。iPS細胞も遺伝子発現を胎児の状態にすることで確立された細胞です。オミクス解析や空間トランスクリプトーム解析といった技術を用い、細胞や組織の老化の過程や再生能力の解明に取り組んでいます。データサイエンスも駆使して、老化や再生に関わる膨大な情報を解析し、新たな分子メカニズムの発見に日々挑戦しています。今後も多様な分野の知見を取り入れながら、世界の健康長寿に貢献するための研究を進めていきます。

Inflammaging、オーラルフレイル

慢性炎症は負の影響を全身の臓器に与えることが報告されており、炎症による加齢進行を意味するInflammagingという概念があります。全身の臓器の中でも特に中枢神経系である脳は炎症に脆弱な臓器とされており、さまざまな疾患との関連や疾患の悪化を招くことが報告されています(Yamada H, Kase Y, et al. Inflamm Regen. 2022)。

現在の日本社会は超高齢社会と言われ久しいですが、未だ高齢発症の疾患の発症メカニズムや治療法の確立には至っていません。特に高齢者では口腔内の慢性炎症である歯周病や、オーラルフレイルの状態が悪い方ほど認知機能や身体的フレイルの程度が悪い傾向にあることは報告されていますが、実は「歯周病による慢性炎症が原因で認知機能障害をきたす」のか、「認知機能障害の程度が酷い患者が口腔ケアも疎かになっているだけ」なのかの正確な回答は出ていないのが現状です。これは私が病棟で指導医を務めていた際にも感じていた臨床現場での疑問でもありました。 そこで精細な重症度別の歯周病モデルマウスを作成し、そのモデルマウスの認知機能を評価し、さらに脳内で慢性炎症により何が生じているのかを目的として研究を進めています。口腔感染症である歯周病と全身疾患に関する学問領域はPeriodontal medicine(歯周医学)と定義され、歯周病を「歯周組織の感染から引き起こされる持続的な慢性炎症」という観点で捉え、本研究課題では全身臓器に着目して研究をしています(Kase Y et al. in revision)。

図)加齢に伴い、骨密度の減少、筋肉量の減少、脳の萎縮、肌の老化などが起きていきます。我々は単一臓器でなく、
血液、筋肉、骨、脳、腸内細菌など様々な組織に焦点を当てて解析を進めています。

共同研究

我々は老化、再生という大きなテーマに取り組むにあたり、上述の内容以外にも複数の大学や研究機関と協力して研究を進めています。相互に議論を交わし、お互いの強みを活かして研究を推進しています。

主な共同研究機関

大阪大学医学部附属病院 老年・総合内科学
https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/geriat/www/
大阪大学の老年総合内科学の山本浩一教授、竹下ひかり招聘教員らとともに老化表現型を表すマウスの解析を重点的に行なっています。

慶應義塾大学医学部歯科・口腔外科
http://dent-os.med.keio.ac.jp
慶應大学病院の歯科・口腔外科の中川種昭教授、森川暁講師らとともに歯周病、オーラルフレイルがもたらすinflammagingの各臓器への影響を研究しています。炎症は老化を促進することが知られており、口腔内環境の破綻は高齢診療科としてみ重要なテーマです。

熊本大学大学院整形科学研究部 老化・健康長寿学講座
https://debalab.org
長寿で老化耐性があるハダカデバネズミを日本で唯一有している三浦恭子教授の教室と共同して老化の本質に迫っています。

ページトップへ戻る